まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
制服のスカートを翻し、今日から通う高校の校門に立つ。
「友達、できるかしら」
はやる胸を押さえて、小さく深呼吸する。
目を閉じれば、今までの出来事が頭をよぎった。
(中学では、友達どころか、同級生に逃げられてばかりだった……)
曰く、近づくと寒気がする。
曰く、凍りつきそうな目で睨んでくる。
曰く、氷の礫のような毒舌だ。
……どれもこれも誤解だ。
ただのコミュ障なだけだというのに。
そりゃ、前世の記憶のせいもあって、言動が少し年増じみてたかもしれない。
大好きな人と結婚もしたし、子どももいた。
……けれど!
過去は過去、今は今。
私は切実に、友人たちと送る賑やかな青春ライフを望んでいるのだ。
(今度こそ、作って見せる…!友達を…!!)
一人闘志に燃えて、戦場に向かう兵士のように勇ましく歩いていると。
「きゃーーーー!!!!!」
「むっ、なにやつ!?」
突然の耳をつんざく黄色い声に、私は臨戦態勢をとった。
尋常ではない声の大きさ。
新学期早々、事件だろうか。
視線を彷徨わせ、その騒ぎの元を探していると、丁度昇降口の前あたりに大きな人垣ができているのを見つけた。
(誰かいるのかな?)
自分と同じ新入生と思しき女子生徒たちが、わらわらと何かに群がっている。
(はっはーん、さては今時よく聞く、「いけめん」とかいうやつね?)
顎に手を当て、にやりと笑う。
現代の言葉と共に、昔を思い起こす。
(でも残念。きっとまどかの方が、よっぽどイケメンなんだから!)
元夫贔屓全開に、心の中で声高々に叫びながら、その人の群れの横を通り過ぎる。
校舎脇に植えられていた桜の花びらが、光の粒みたいに辺りを舞っていた。
花びらを運ぶ風が、腰元まである私の髪も、一緒に揺らす。
耳元の髪を押さえ、昇降口に入る頃には、その人垣のことなどすっかり忘れていた。