まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「た、ま…」
肩で息をしながら、私は彼を安心させるように微笑んだ。
「大……丈夫。……私、昔から、……体は、強い方なの」
「…っ、たま!」
彼が弾かれたように地面を蹴る。
ぐるりと、世界が回った。
「たま!!…たまおっ!!」
温かい熱が、体を包む。
乱れた髪と、頭から流れる血で遮られた視界の先に、彼が映っていた。
「たまおっ!珠緒!!」
頭に、頬に、額に。
必死に何かを拭うような彼の手が滑っていく。
頬に何度も、熱い雨が降り注いできた。
「珠緒…、いやだっ、珠緒っ…!!」
駄々をこねる子どものように、まどかは幾度も私の名前を呼び、もげそうなほどの勢いで首を横に振った。
彼がもう一度、強く私を掻き抱く。
泣いている彼には悪いけど、私の胸の中は満足感でいっぱいだった。
だって、彼を守れた。
私は本当に、あなたさえ守れれば、他はどうだっていいの。
命も、未来も、………何も要らない。
彼は。
彼が。
彼だけが。
――私を救ってくれた人だから。
「珠緒さんっ!!!」
意識を手放す直前、聞き覚えのある呼び名が耳に届いた気がした。