まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
4.5(円side)
頭の中が真っ白になった。
呼吸の仕方さえ忘れた。
自分が生きているのか、死んだのか、それすらも定かではなくなった。
「ぇ…?」
今にもひかれそうな状態で、道路を歩いていたブチャを腕に抱えた瞬間。
目の前に迫ったトラックからの衝撃に、せめて小さな命を守ろうと蹲った俺の横で。
――彼女。……白峰珠緒が。
真実、その長い髪を真っ白に染め上げて。
瞳に金色の光を宿して。
トラックと俺の間に滑り込んだ。
叫ぶ間も、止める間もなく、彼女の華奢な体がトラックに弾き飛ばされてしまう。
――そう思った時。
バキバキと、何かが凍りつく音がした。
次に、耳をふさぎたくなるような激突音と、何かが引きずられた音。
はっとしてそちらを見れば、そこにはトラックと俺たちを隔てる、高い高い、分厚い氷の壁ができていた。
氷の壁を両手で押さえながら、彼女はそこに立っていた。
その足は道路を血で染め、乱れた髪のせいで顔は見えない。
「たま……?」
無意識のうちに呼んだその名前に、彼女は小さく反応して、ゆっくりと顔を上げた。
小さな顎から、鮮血が滴り落ちる。
頭から流血し、血まみれの、彼女の顔。
「た、ま…」
それでも、彼女は俺の無事を見て取ると、痛みなど感じていないかのように柔らかく微笑んだ。
「大……丈夫。……私、昔から、……体は、強い方なの」
「……っ、たま!!」
もう、無理だった。