まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「……あんたが、死ぬかもしれないと思ったら」
形のよい薄い唇から、
「俺も一緒に死にたくなった」
爆弾発言が飛び出した。
ポカンとしている私を置いて、悩ましげな吐息を落とし、まどかは言う。
「………赤の他人にそんなこと、普通、思わないだろ」
「待て待て待て」
本末転倒な言葉を聞いた私は、体裁を繕うのも忘れて、素のままに突っ込みを入れた。
「は?」
彼が目を丸くしてこちらを見てくる。
しかし、そのまま続けた。
「貴方が死んだら、助けた意味がないでしょう」
「っ」
まどかの顔が思いっきり顰められ、
「あんたが死んだら、それこそ、この世界に生きてることになんの意味もないだろっ…」
「え…」
想像しなかった台詞に、私は二の句が告げられなくなる。
彼は興奮しているのか、憤っているのか、顔を赤く染め、縋りつくように私の両腕を掴んできた。
「……おかしいって、分かってる。普通じゃない。……俺、普通じゃないんだ」
「近衛、くん?」
躊躇いながらも声をかけると、彼は一度逡巡してから、伏し目がちに呟いた。
「あんた、トラックを凍らせたよな」
「っ」
「運転手も気絶してたし、多分通行人もいなかったから、あの瞬間を見たのは俺だけだと思うけど…」
そうだ。色々なことがあって忘れていたが、私はとうとう、彼の前で力を使ってしまった。
――あの、人々に忌み嫌われてきた力を。
夕暮れの日のように誤魔化すこと、見逃してもらうことは、もうできない。
自然と、口の端が上がり、嘲笑を作り上げた。