まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~


(記憶はなくても、行動の節々が『彼』そっくり。……それもそうよね)


私のように記憶があるものが、まれなだけ。

けれど、だからこそ、証明できる。


――生まれ変わっても、人の魂の根幹は変わらないのだと。


記憶があっても、なくても、その人のとる行動のすべては、その魂に付随する。

例え意識的だろうと、無意識だろうと、行動理念は魂に刻まれているのだ。


(魂が先か、人格が先か、なんて、人の身の私が知る由はないけれど)


思案から戻り視線の先に意識を向ける。と、


「ひっ!?まどか!なんなのそのシャツ!!」

「え?」


不思議そうに首を傾げるまどか。

きょとん、じゃないわよ!!可愛い!!!


プルプルとわななきながら、指を差した先。


彼が纏っている、先月おろしたての真新しい学校指定のワイシャツ。

その、胸元から腹部にかけて。つまり、前面のほぼすべて。

……真っ赤に染まっていた。


「血まみれじゃないの!」


今の今まで意識の外だった現実に、真っ蒼になって彼のシャツにつかみかかる。

飛びついた時の勢いが良すぎて、ベット脇のパイプ椅子に腰を下ろしていた彼を派手に押し倒してしまったが、そんなことは些末事だ。


「なっ…、た、たま?」


まどかに馬乗りになった私は、戸惑った声を上げる彼を無視して、さながら追剥のようにそのボタンをはずしていく。


「まさか、あなたまで怪我をしてしまったのっ!?」

「いや、ちがっ」


バクバクと耳元で聞こえる自分の心臓の音で、彼の言葉は何も耳に入ってこない。

……ここが病院の一室なことは、目覚めて白い天井を見た時から気づいていた。

でも、もし、怪我をしたのが私だけではないとしたら……。


えぇい!それにしても彼の手が邪魔だ。


< 40 / 104 >

この作品をシェア

pagetop