まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「しらたまちゃんって、変な子だな」
「……そうですか?」
首を傾げれば、佐々木君が困ったように苦笑いを浮かべた。
「ほら、俺、事故の時、たまたま近くに居たじゃん?…救急車呼んだ後に色々確認しようと声かけたんだけど、あいつ放心状態で、君を抱きしめて血まみれのまま、ぴくりとも動かねぇの。んで、さっきお医者さんに聞いたら、やっぱり病院でも話聞こうにも何の反応もしないで、しらたまちゃんにつきっきりで困ったって」
(……まどか)
記憶がないとはいえ、彼にとってトラウマであろう私の死。
雨の降る中、私を抱きしめて動かない彼を想像して、胸が苦しくなった。
言いにくそうに言葉を濁し、頭を掻く彼。
「てっきり円の外見とか上辺の良さにつられたのかと思ってたんだけど……」
そして、
「まぁ、ぶっちゃけ、傍から見た感じ、惚れてるのは完璧に円の方だよなぁ」
「………ん?」
へらりと、先ほどまでのシリアスな雰囲気をぶっ飛ばして笑った佐々木君に、慌てて詰め寄る。
「惚れる?誰が。誰に」
「え?円が、しらたまちゃんに」
「困ります!!!」
顔面を青くして叫ぶ。
「何を根拠に!まどかに失礼ですよ!ていうか、私、初対面で彼に『嫌い』だのぬかしたんですよ!?」
「え、そうなの。あのイケメン相手に?マジ大物じゃん。しらたまちゃん」
正直今までのまどかとのやりとりから、もしやとは思っていたが、第三者から見てもそれでは最早言い逃れも出来なくなってしまう。
何度でも言うが、まどかのために、私は彼に嫌われなければならないのだ。
私のあまりの剣幕に驚いているらしき佐々木君の襟首をつかんで揺さぶる。
「そうだ!佐々木君、まどかと長い付き合いなんでしょう!?今の彼の嫌いなタイプを教えてください!全力で嫌われて見せます!」
「んん??ちょっと待って、どゆこと」
がくがくと頭を揺らしながら、佐々木君が訝しげに尋ねてくる。
(何かうまいいいわけを……)
頭をフル回転させ、私は言った。