まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
彼の傍ら。開いたままの扉からお医者さんと学校の先生が話しながら入ってくる。
私が様子を聞かれたり、話をしたりしている時、まどかは佐々木君と話していた。
一通りの状態確認をして、脳波も異常がないということだったので、お医者さんに頼み込んでその日のうちに帰れることになった。丈夫な体、万歳。
お医者さんに続き、佐々木君と先生がそれぞれのタイミングで病室を後にしてから。
「……………」
「……………」
私も帰ろうと荷物をまとめている間、ずっとまどかからの視線を感じていた。
(き、気まずい…)
何を言うでもなく、ただ無言の圧力を背後からひしひしと感じるのだ。
加えて、
『傍から見た感じ、惚れてるのは完璧に円の方だけどなぁ』
先ほどの佐々木君の発言も私の頭の中に残っていた。
(まどかが、私に…?)
自然と頬に熱が集まる。
そりゃ、嫌われるのが目標とは言っても、前世で愛した相手だ。
嬉しいに決まっている。――言えないけど。
いよいよ支度も整って、深呼吸と共に振り返ろうとした、丁度その時。
「…っ、たま」
「え」
腕を引かれ、否応なくまどかの方を向くことになった。
椅子に腰掛けたまどかを見下ろす形になった私を、彼はまっすぐと見つめてきた。
その瞳は、子犬のように揺れている。
「さっきの……」
(わぁぁあああ!?)
耳まで赤くなり、居た堪れなくて顔を逸らす。
それでも彼は、逃げることを許してくれなかった。