まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「ほんとに知り合いの話?」
「…………」
顔を背けたまま横目で彼の方を見ると、まどかは表情を強張らせ、口を引き結んでいた。
不安げな顔が、たまらなく可愛い。はぁはぁ。
「こほんっ、あ、あれは…」
「……」
黙って続きを待つまどかに、何と言ったものかと、思案する。
「とある、夢の中のお話で…」
「夢?」
眉を寄せた彼に、何度も頷いて肯定する。
「そう。私のある日の夢の中に出てきた人のお話」
「…………」
まどかが目を伏せると、長いまつ毛が白い頬に影を作った。
やっぱり、何度見ても整った顔だと思う。今も、昔も。
再びまどかがこちらを見上げ、小さく尋ねてくる。
「……好きなの」
「夢の話よ?」
至極真剣に問いかけてくる彼がおかしくて、つい笑って答えれば、まどかの頬が紅くなった。
正直に答えるなら、もちろん答えはイエスだ。
けれど。
「………もう、逢えない人よ」
「……………」
ぽつりと零すと、彼がはっとなって私の顔を覗き込んだ。
「……たま?」
心配そうな声が、余計に寂しさを募らせた。
そう。
目の前にいるのに、ひどく遠い場所に、私の想い人はいるのだから。
「……帰りましょ。遅くまで付き合ってくれてありがとう」
荷物を持とうと腰を屈めれば、横から伸びてきた手が、さっと私のカバンをさらう。
そして。
「送る。…足は平気か?無理そうだったら負ぶるけど」
今世の元夫は、言葉少なに私に空いた片手を差し出した。
だから私も、笑みを作って短く返した。
「ちゃんと一人で歩けるわ。……ありがとう」