まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
夢、おいてその先に
1
夢の話なんてしたからだろうか。
懐かしい、遠い日の記憶を夢に見た。
『珠緒さん』
梅雨時の晴天で、蒸し暑い日。
たすきをかけ、家中を駆けまわる私にまどかが声をかけてくる。
……床の中から。
『こーら、まどか。起き上がってはだめ。熱が高いんだから』
『でも』
なおも不安げに上体を起こそうとする夫を見かねて、私は傍らに寄った。
『大丈夫。一日くらい、立派に家事をこなして見せるわ。私だってやればできるのよ』
『珠緒さん…』
熱に浮かされ、潤んだ瞳がこちらを見る。
かすかに開いた唇からは、熱い吐息が苦しそうに漏れていた。
額に乗せてあった手ぬぐいをもう一度氷水で冷やし、乗せなおす。
『氷は足りている?足りないものがあったらいつでも声をかけて』
『………』
すると、まどかは掛布から手を伸ばしてきて、そっと私の手を取った。
いつもは温かいと感じるその手の温度は、温かいを通り越して熱いと表現するのがふさわしかった。
私にとっては、普通なら嫌悪しか感じない温度だったが、まったく気にせず指を絡めた。
『どうしたの』
ぼんやりとした眼差しで、寂しそうにこちらを見上げてまどかは言った。
『………………足りないです』
『……氷が?』
彼が小さく首を振る。
そして、か細い声で呟いた。
『……たまが』
『ぐふっ』
『…珠緒さん?』
心配そうな声に返事をしながら、興奮に高鳴る胸を落ち着かせる。
本音を言えば彼と一緒に床に入りたいくらいだったが、仕事はまだたくさん残っている。
今は我慢だ。