まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~


それというのも、会議で先生からの連絡事項等が終わりお開きになった後、仕事が残っているのに帰ろうとする子が続出したのだ。

やれ、

『やばっ…。今日習い事あるのに、明日クラスメイト全員に配る資料のホッチキス留め、まだだった!』

だの。


やれ、

『え、待って。学年行事のクラスごとの希望調査の結果表、明日までって言ってた?……用事あるの忘れてたんだけど』

だの。


普通なら自分でやりなさい、と言いたくなるような事柄の一つ一つに、しかし、まどかは、


『仕分けだけしといてくれたら、あとはやっておくから先帰っていいよ』

『原本と集計表あれば、できる範囲で代わりに終わらせておくから、早く帰りな』


と、笑みを浮かべて安請け合いした。

まるで彼らを会議室から追い払うように。


すると、当たり前のように生徒たちは、


『近衛君…っ!!ありがとう!!』

『近衛、神!!』


などと手を合わせて爽やかに帰っていった。


ならば私もと、既に二人だけになった部屋で、猫なで声で…。


『気づいたらクラス委員になってたから、ホッチキス止めも集計も終わってないけど帰りまー……』

『おいこら、ちょっと待て。少しなら手伝ってやるから、仕事終わってないのに帰るな』

『そんな!?』


同じようなことを言ったのだが、何故だか私だけ首根っこを掴まれ、逃がしてもらえず……。

そこから、不平不満を垂れつつ仕事を進めていたが、ついに睡魔に負けて居眠りをしてしまった、という次第だ。


「自分の仕事だろ。文句言ってないでとっとと手ぇ動かせ。痴女」

「ぶー。矛盾してる」

「ほら、ホチキス」


彼の手からホチキスを受け取り、居眠りで中断されていた作業にしぶしぶ戻る。

ぱちぱちと資料を止めながら、傍らに座って自分の作業をしているまどかを盗み見る。

手の甲に顎を置き、貸し出しパソコンを弄る彼の姿はとてもカッコいい。


(昔はパソコンなんてなかったから、こういうまどかの姿を見れるのは現代の特権ね)


< 62 / 104 >

この作品をシェア

pagetop