まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
それというのも、会議で先生からの連絡事項等が終わりお開きになった後、仕事が残っているのに帰ろうとする子が続出したのだ。
やれ、
『やばっ…。今日習い事あるのに、明日クラスメイト全員に配る資料のホッチキス留め、まだだった!』
だの。
やれ、
『え、待って。学年行事のクラスごとの希望調査の結果表、明日までって言ってた?……用事あるの忘れてたんだけど』
だの。
普通なら自分でやりなさい、と言いたくなるような事柄の一つ一つに、しかし、まどかは、
『仕分けだけしといてくれたら、あとはやっておくから先帰っていいよ』
『原本と集計表あれば、できる範囲で代わりに終わらせておくから、早く帰りな』
と、笑みを浮かべて安請け合いした。
まるで彼らを会議室から追い払うように。
すると、当たり前のように生徒たちは、
『近衛君…っ!!ありがとう!!』
『近衛、神!!』
などと手を合わせて爽やかに帰っていった。
ならば私もと、既に二人だけになった部屋で、猫なで声で…。
『気づいたらクラス委員になってたから、ホッチキス止めも集計も終わってないけど帰りまー……』
『おいこら、ちょっと待て。少しなら手伝ってやるから、仕事終わってないのに帰るな』
『そんな!?』
同じようなことを言ったのだが、何故だか私だけ首根っこを掴まれ、逃がしてもらえず……。
そこから、不平不満を垂れつつ仕事を進めていたが、ついに睡魔に負けて居眠りをしてしまった、という次第だ。
「自分の仕事だろ。文句言ってないでとっとと手ぇ動かせ。痴女」
「ぶー。矛盾してる」
「ほら、ホチキス」
彼の手からホチキスを受け取り、居眠りで中断されていた作業にしぶしぶ戻る。
ぱちぱちと資料を止めながら、傍らに座って自分の作業をしているまどかを盗み見る。
手の甲に顎を置き、貸し出しパソコンを弄る彼の姿はとてもカッコいい。
(昔はパソコンなんてなかったから、こういうまどかの姿を見れるのは現代の特権ね)