まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~


「……………俺と同じ名前の奴なんだろ」

「っ」


息を呑んで彼を見れば、まどかは自嘲するように笑んだ。


「初めて会った時から変な反応だったし、かと思えば泣きながら抱き着いてくるし、よく分からないけど察するだろ。…もう逢えない人って言ってたのも、あの雨の日に、俺に生きてるか訊いてきたのと繋がるし」

「……まどか」

「……どうせ、さっきの夢もそいつの夢なんだろ」


彼の瞳が寂しげに揺れるのを見て、叫びたくなった。


違うの、と。

全部あなたの事なのだと。
ずっと昔から、私はあなた一人を愛しているのだと。

伝えたいのに、私にそんなことができるはずがない。いたずらに彼を傷つけ危険に晒すだけ。


――あぁ、これは一体、どんな責め苦なのだろう。


意地悪な神様もいたものだ。


「あんたのまどかは優しい?」

「………」


目頭が熱くなる。

私は、何と答えるのが正解なのだろう。

否定すればいい?
それとも、肯定をすればいいのだろうか?

いいえ、そもそも、この問いに正解はあるのだろうか。


傷つけたくない。嫌われたくない。でも、あなたの死ぬ未来が、その末になくなるのなら。


私はーー。


口を開く。


「………優しい、人よ。私の、大事な人」

「………」

「あなたとは違ってね」


まどかは一度こちらを静かに見てから、硝子のような微笑みを浮かべた。


「そっか」


どうか私を褒めて欲しい。


泣きたいのを我慢して、彼の目を見て、にっこり笑って見せたのだから。


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