まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
帰宅後、制服の上着を脱いでいると、ポケットから何かが落ちる。
「あら、これ…」
それは蝶々をかたどった小さなブローチだった。
(そうだ、これ、今日学校の廊下で拾って、…それきり)
高校生が持つにしては、かなり精巧な作りのブローチだ。
持ち主もきっと心配しているに違いない。
明日にでも落とした人を探し、見つからぬようだったら職員室に届けなければ。
忘れないように枕元の棚に置き、お風呂や夕食を終えて就寝の準備を整える。
電気を消し、独りきりの静かな部屋の中、布団に潜り込んだ。
(まどか……どうしているかしら)
覚えのある限りずっと、寝ても覚めても今と同じように彼の事ばかり考えていた。
再会してからは殊更、それがひどい。
もう、お互いに離れるべきなのに。
――見守るだけ。彼を危険から守るだけ。それが今の私の存在意義。
私たちの道は交わらない。だから、せめて。
――夢の中で、貴方に逢えますように。
何百、何千回目の願いを口の中で呟いて、私は目を閉じた。