まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
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「なんっつー夢なの」
朝、私はげっそりと目の下に隈を作って登校していた。
道行く人たちからは不審者を見るような目を向けられ、遠巻きにされた。
それもこれも、恐ろしい夢見のせいだ。
悪夢ではない。悪夢では。
……だが、しかし。
(よりによって、ベロベロに酔ったまどかが夢に出てくるなんて)
私は両手で顔を覆った。
まどかが出て来てくれたことは良い。
問題は彼の取った行動なのだ。
(まどかにお酒はだめなのよおぉぉ!!)
普通の男性はそうなれない人も多いと聞くのに、彼はお酒に強いんだか弱いんだか分からない人で、しっかりと酔うくせにしっかりと貪ってくる人だった。
そう、お判りだろうか。
今朝方見たのは、その野獣と化したまどかに襲われる夢だ。
いや、もしかしたら、見方によってはとんでもない悪夢なのかもしれない。
(昨日、今日と言い、まさか、私、欲求不満?)
しかも、それが実話なのが、余計にたちが悪かった。
――寝る直前の、私の乙女な願望を返せ。
(どうしよう…。当の本人に記憶がないとはいえ、今日はまどかの顔が見れる自信がない)
赤くなっているであろう頬を押さえ、昇降口に向かっていると、視線の先に見覚えのある人物。
(噂をすれば、まどかと……あれは、副委員長さん?)
以前、雨の日に並んで歩いていた組み合わせですぐに気がついた。
副委員長さんの方は会議の時はいなかったから、久しぶりだ。
今日はそんなに遠くない場所で談笑をしていたので、私からも顔が見えた。
セミロングの茶髪が揺れる背中。
豊かな胸。くびれた腰。
切れ長の瞳に長いまつ毛。ふっくらとした唇に通った鼻筋。
可愛いというよりは艶やかな印象が強かった。
高身長のまどかと少ししか違わない背の高さも、それを助長しているのかもしれない。
不思議な色味の瞳がまどかを見つめ、三日月形に細められる。
彼女は口元に笑みを浮かべ、気安い様子で彼の肩に手を触れた。
まどかも柔らかく笑って、言葉を返している。
(……………ふぅん。ああいうボンボンしたのが好みになったのね)
靴箱の陰に隠れて様子を窺う私は、もはや完璧に変質者、否、ストーカーだった。
(そうよね、どうせ私は今も昔も凹凸の少ない貧相な崖ですよ。経験って大事ね。二度と同じ失敗は犯さないでしょうから)
人知れずひねくれていると、ふいに彼女がこちらを向いた。
私と目が合い、艶やかな口元がゆるりと弧を描く。
まどかに気づかれないよう、彼女は小さく手を振った。
(……今、私に?)
念のため後ろを振り向いても、誰もいない。
するとやはり、彼女は私に向けて笑いかけたのだ。
(どこかで会ったっけ?)
頭に疑問符を浮かべている間に、彼女たちは教室の方へと歩いて行った。