まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
寝るのが怖くなり、真面目に残りの授業を受けたその日の放課後。
「ん?ブローチがない」
帰りがけに職員室に預けようとした拾い物が、ポケットから消えていることに気づく。
(どうしよう、誰かの落としものをなくすなんて…!)
最後に出した覚えのある廊下を探してみるが、どこにもそれらしきものは見当たらない。
(こんなことになるなら、もっと早く先生に渡しておくべきだった…)
申し訳なさでいっぱいになり、とぼとぼと帰路についていた時。
「……たま?」
背後からかけられた声にゆっくりと振り向けば、そこには大好きな人が立っていた。
「……まどか」
愛しい人に逢えたというのに、顔も知らない誰かへの罪悪感に暗い表情のままだった私を、まどかは心配そうにのぞき込んできた。
「どうした?体調悪いのか」
「ううん」
首を振って答える。
「なくしものをしてしまったの」
「なくしもの?」
頷いて、指でブローチの大きさを形作る。
「このくらいのね、蝶々の形をした綺麗なブローチなんだけれど」
「………」
まどかは私の手元を見てから、視線をこちらへ向けた。
「大事な物なのか?」
「………そう、ね」
(誰かにとっては、きっと)
しょんぼりと答えれば、彼は落ち着きなく視線を彷徨わせた。
そして、
「………はやく見つかるといいな」
早口にそう言った。
「うん」
足元を見ながら首肯した私はあることを思い出し、はっとなってまどかを見た。
すると、まどかが大げさなくらい肩をびくつかせる。
(?)
「な、なんだよ」
「あ、えっとね」
彼の様子に若干違和感を覚えたものの、先を促され慌てて続けた。