まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~




寝るのが怖くなり、真面目に残りの授業を受けたその日の放課後。


「ん?ブローチがない」


帰りがけに職員室に預けようとした拾い物が、ポケットから消えていることに気づく。


(どうしよう、誰かの落としものをなくすなんて…!)


最後に出した覚えのある廊下を探してみるが、どこにもそれらしきものは見当たらない。


(こんなことになるなら、もっと早く先生に渡しておくべきだった…)


申し訳なさでいっぱいになり、とぼとぼと帰路についていた時。


「……たま?」


背後からかけられた声にゆっくりと振り向けば、そこには大好きな人が立っていた。


「……まどか」


愛しい人に逢えたというのに、顔も知らない誰かへの罪悪感に暗い表情のままだった私を、まどかは心配そうにのぞき込んできた。


「どうした?体調悪いのか」

「ううん」


首を振って答える。


「なくしものをしてしまったの」

「なくしもの?」


頷いて、指でブローチの大きさを形作る。


「このくらいのね、蝶々の形をした綺麗なブローチなんだけれど」

「………」


まどかは私の手元を見てから、視線をこちらへ向けた。


「大事な物なのか?」

「………そう、ね」


(誰かにとっては、きっと)


しょんぼりと答えれば、彼は落ち着きなく視線を彷徨わせた。

そして、


「………はやく見つかるといいな」


早口にそう言った。


「うん」


足元を見ながら首肯した私はあることを思い出し、はっとなってまどかを見た。

すると、まどかが大げさなくらい肩をびくつかせる。


(?)


「な、なんだよ」

「あ、えっとね」


彼の様子に若干違和感を覚えたものの、先を促され慌てて続けた。


< 69 / 104 >

この作品をシェア

pagetop