まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「前に言ってた副委員長さん、名前はなんていうの?」
「副委員長?……花田さんのこと?」
「綺麗な、細い美人さん」
「美人……かは分からないけど、副委員長なら、花田望って名前」
(あんな綺麗な子を捕まえといて、美人か分からないですって?)
じっとりと睨みつければ、まどかが身じろぐ。
「な、なんだよ」
「…………べつに」
(確かにあなたにしてみたら?鏡に映る自分が一番きれいでしょうけど?)
唇を尖らせていると、私の様子を見た彼が眉を寄せた。
「……おい、今何か、すごく失礼なこと考えてないか」
「べつにぃ」
「っ」
「むっ」
ふいにまどかが私の頬を柔らかく摘まみ、びよんと引っ張る。
おもちのようにのびた頬に私が顔を赤くすれば、彼は唇を震わせ、ついには噴き出した。
「ぷっ、ははっ」
「ひゃにふるの」
「すっごい伸びた」
「ひふれいなやふね!ひまふぐへをはなひなひゃい!」
「やだ」
「むひー!!」
もごもごと聞き取りにくいはずなのに、会話のキャッチボールが成立していることに驚きながらも、年相応の彼の笑顔を見て心をときめかせる。
「わひゃひのほっへはひゃはいわよ」
「へぇ、いくら?」
「おはねのもんひゃいひゃ、ないんひゃはら」
「……ふぅん」
腕を組んで偉そうに言っても、いまいち格好がつかない。
目の前の彼は、少し考えるそぶりを見せてから、何を思ったのか腰を屈めた。
そして。
「っ!?」
頬に一瞬、熱が触れる。
柔らかいそれは、すぐに離れていった。
夢か、現か。定まる前に。
「じゃーな、たま」
彼は手を離して私の前から走り去った。
「…………なに、今の」
断腸の思いで嫌われようとしている私に対しての、当の本人からの奇襲に。
頬を押さえたまま、私はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くした。