まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
翌日、幸いなことにおかしな夢を見ることもなく、快眠を経て校門をくぐる。
すると、
「あら、昨日の」
「?」
声をかけられた気がしてそちらを向けば、
(たしか……)
「花田、さん?」
出るところはしっかりと出ながらも、ほっそりとした長身美女。
花田望が、朝の風に髪を揺らしながら立っていた。
私の反応にその目が微かに見開かれ、彼女は首を傾げた。
「私のこと知ってるの?」
声まで艶やかな彼女に、人見知りな私はつい目を逸らす。
「……はい、まどか……あ、えっと。近衛君に聞きました」
「そう」
私の言葉を聞き、花田さんは目に見えて嬉しそうに頬を緩めた。
「近衛君、私の話をしてるのね。ねぇねぇ、私のこと、なんて言ってた?」
「え、えぇ?」
初対面に等しい相手から顔を寄せられ、慌てふためく。
自分からこんなに間近に近づいてくる変わり者は、まどかくらいだ。
(だって私、近くに寄るだけで寒いはずよ)
私の体質は感情に大きく左右される。
安心している時は比較的抑えられる冷気も、拒絶や不安を感じてしまえば自然と体の内側からにじみ出て来てしまう。
だからみんな、本能的に私を警戒して遠ざかろうとするのに。
これほどまでに無遠慮で鈍感な人は、初めてだった。
「ふ、『副委員長さん』だって……」
「えーそれだけ?」
リンゴのように赤い唇が、不満そうにとがる。
花田さんは胸元に落ちた髪を払って、呆れたように腕を組んだ。
「近衛君って、格好いいしなんでもできて完璧だけど、ちょっと変ってるわよねぇ」
ため息交じりに聞こえた言葉に、私の片眉が跳ね上がる。
「………どういう意味」
元夫を侮辱された私は、戦闘態勢で彼女を睨みつけた。
そんな様子を見ても余裕の笑みを浮かべた花田さんが、言う。