まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~


「落ち着きすぎてて高校生らしくないっていうか……。あの人、取り巻きに笑いかけているけど、まったく女の子に興味ないでしょ」

「………」


肯定も否定もせず、ただ黙って見つめ返す。

人差し指を、まるで内緒話をするかのように口元に当て、彼女は告げた。


「そういうところが他の男たちと違って、素敵」

「っ」


淡い茶色の瞳の奥に何かを見た気がして、心がざわめく。


(この人……)


無意識に力が入っていたのか、立ち止まっている私たちの横を通り過ぎようとした生徒が驚いた声で叫ぶのが聞こえた。


「さっむ!!は?もう5月だよな?」

「私も今寒気した……。季節の変わり目だから風邪ひいたかな…」


慌てて拳をほどき、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

荒ぶった感情を抑え込む方法は、今の私にはこれしかない。


(いけない…。問題を起こしたら、もうここにはいられなくなってしまう)


それはつまり、まどかを近くで守ることができなくなるということ。

そんな未来は願い下げだ。

私はゆっくりと口を開き、大事なことだけを伝えることにした。


「近衛君を傷つけるようなことはしないで」


言っちゃ悪いけど、あなた、見た目や雰囲気からして悪女っぽいんだもの。


「………」


大人びた顔つきに似合わない、きょとんとした表情で私を見つめてから、彼女はにっこりと微笑んだ。


「じゃあ、またね。えぇっと」

(返答はなしかい)


眉間にぎゅっと皺をよせ、不機嫌全開に答える。


「白峰珠緒です」

「そ、しらたまちゃん」

「!!」


佐々木君がつけたものとまったく同じあだ名に吃驚して、息を呑む。

知り合いかと思って探るように彼女を見ても、そこに怪しいところは感じられなかった。

どうやらただの偶然らしい。


手を振って去っていく花田さんの後ろ姿を見つめながら、思う。


(……まどかに私以外の大事な人を作ってほしいとは思っているけど、あれは……)


複雑な心境でため息をつく。


(彼には、平凡な、優しくてかわいい女の子がお似合いだわ。…そう、私とは真逆な子)


春の風が、私の長い白銀交じりの茶色の髪を躍らせた。

つられるように空を見れば、そこには青々とした快晴が広がっていた。


雪のように舞っていた桜の花も、今はもう遠い。


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