まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
(大嫌いな神様)
雪を見る度に思い出す。
私の始まりも、終わりも。
そのすべてを司る、脳内にこびりついた存在。
(私のことは許さなくてもいいから、どうか、まどかだけは…)
幾度となく心の中で祈ってきたことを、再度願う。
いつだって、私の願いはただ一つなのだから。
「……………ごめんね、雪」
刹那、砂利を踏む音がして、視線を空から落とせば、
「…まどか?」
「…っ!」
目を見開いたまま、こちらを見つめる彼。
けれど。
「………?顔紅いけど、どうしたの」
そこまで暑くもないのに、まどかの顔は湯上りのように真っ赤だった。
疑問を抱いて近寄れば、縮めた距離の分だけ離れていってしまう。
(何?)
あからさまな態度に、疑念が膨らむ。
それこそ、通りがかりの子たちの話ではないが、彼も風邪をひいたのだろうか。
「まどか?」
心配になって、手を伸ばした瞬間、
「さ……触るな!!」
パシッと、手で弾かれた。
「………」
息を呑み、彼を見つめる。
目が合うと、まどかははっとなって焦ったように言った。
「お、俺に近寄るな!」
謝罪でもなく、弁解でもなく。
愛しい人の唇から紡がれたのは、ただ、拒絶の言葉。
望んでいたはずだった。彼と直接的に関わらないことを。彼に嫌われることを。
……自分が想像していたよりも、それが早かっただけ。
頬を紅潮させたまま、まどかはそれ以上何も言わずに昇降口へと速足で歩いて行った。
「……………」
弾かれた状態で宙にあった手を、ゆっくりと下ろす。
通り過ぎる生徒たちが、痛々しいものを見るように私を一瞥して去っていく気配がする。
俯いていたから、よく、分からないけれど。
「……はは……」
乾いた笑い声が、唇から漏れた。
自分の立っている場所がどこだか、一瞬分からなくなる。
足元がなくなって、世界のすべてが遠くなったように感じる。
「…………昨日は、普通だったくせに」
…なんて、彼にとっては初対面で、「嫌い」などと言い放った私が言えることではないか。
誰の耳にも入らない恨み言のような呟きが、風に溶けて消えていった。