まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
その日から、まどかと顔を合わせることは極端に減った。
違うクラスだというのに今までは不自然なくらい見かけていた分、その変化は私にとって大きなものだった。
代わりに見るようになったのは、花田さんの姿。
そして、それに一緒という形で、まどかの姿を見た。
花田さんが彼の腕に自分の腕を絡めて、何かを囁く。
まどかは笑って言葉を返す。
そんな様子を私は遠くからただ、見守っていた。
花田さんの美貌に引け目を感じているのか、彼女が彼の近くにいる時は、そのほかの取り巻きたちも遠巻きに様子を窺うのだ。
その分、それに相手をしていた彼にかかる負担も減っているようだった。
初めは違和感の強かったその光景も、今となっては慣れてきた。
(まどかが選んだ人なら…)
例え、悪女然としていても、彼さえ満足しているのなら。
彼女が彼を傷つけないというのなら。
まどかの隣にいるのは、花田さんでも良いのかもしれない。
いや、心のどこかで認められていないのは、ただ、私が……。
「………………寒い」
腕を摩り、仲睦まじい二人に背を向ける。
『さ……触るな!!』
(触らない)
『お、俺に近寄るな!』
(近寄らない)
大丈夫。拒絶されるのには、慣れている。
……………慣れている、はずなのに。
「…………っ」
震えた白い吐息が唇からこぼれ、目から溢れた雫が顎を伝って落ちる前に凍りつく。
廊下の窓に微かに映った自分の姿に息を呑み、急いで人目を避けて階段裏の物陰に身を寄せた。
「………………いつから私、こんなに弱くなったの」
膝を抱えて蹲り、必死に体を擦って温めようとする。
――温まるはずがないのに。
だって、この手には熱がない。
この手は何も、温められない。
いたずらに周囲を冷やし、凍らせていくだけ。
「………嫌い」
暗いところにいると、思い出してしまう。
無数の氷が全体を覆う、凍てついたあの場所を。
膝を抱え、終わりの時を静かに待っていた自分を。
いつか来る終わりが、唯一の救いであり、希望だったあの日々を。
「…………こんな化け物………」
――あぁ。
「…………大っ嫌い……」
――寒くて寒くて、凍りつきそうだ。