まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
3
翌日、私は学校を休んだ。
ひどくだるいし、なにより、今は誰の前にも出られる姿じゃない。
朝、目を覚ました時の私の絶望ったらない。
独り暮らしの一室。
その壁の全面に氷の幕が張って、キラキラと輝いていたのだ。
慌てて鏡を見れば、真っ白になった髪に、見開かれた気味の悪い金色の瞳がこちらを呆然と見つめ返していた。
前髪は乱れて顔の前に垂れ下がり、目の下の隈が不気味さを助長している。
まるで、どこかの童話に出てくる、年老いた鬼女のよう。
力が抜けてその場にへたり込むと、私を中心にして、再び床が凍りついた。
(部屋の外にまで氷が張っていたらどうしよう…)
ここはアパートの2階だ。隣室や階下にまで私の力が及んでいたら、迷惑話どころではない。
下手すれば警察沙汰だ。
けれど、こんな姿で部屋を出るわけにもいかない。
さっきから深呼吸をしても、何をしても、状況は一向に改善の色を見せないのだ。
……八方ふさがりだった。
「……………このままじっとしていれば、ババ様の願いが数百年越しに叶うのかしら…」
ころりと横になり、意味もなく天井を見上げる。
窓から差し込む太陽の光が氷に反射して、まるで万華鏡の中にいるように綺麗だった。
ぼんやりと、何をするでもなく浅い呼吸を繰り返す。
このまま、自分の力が肺を凍らせ、心臓を凍らせれば、文字通り、私は自滅するのだろう。
ぞっとしない話だ。