まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
(死ぬなら、まどかのためにって、決めてたんだけどな……)
こんな最後は予想していなかった。
「……でも、まぁいっか」
彼のことを大切にしてくれている友人にも出会えたし。
彼の傍にずっといてくれそうな人もいるし。
あとは、彼が幸せになってくれるなら、私は満足だ。
安心して、この世界とさよならできる。
私がまどかの隣に居続けるなんて、最初から殺していた未来のはずだから。
見返りなんて、求めない。
彼からはもう、この身に余る十分すぎるほどのものをたくさんもらった。
『あんたが死んだら、それこそ、この世界になんの意味もないだろ!』
こんな時に、彼の必死な表情を思い出して、目に涙が滲む。
感覚のない唇を噛み締め、嗚咽を堪えた。
(だめなの、まどか)
パキパキと、何かが凍っていく音がする。
(自分が嫌いなの。気持ち悪いの。ずっとずっと、生きてることが怖くて仕方ないの)
だって、私は。
――死ぬために、生まれてきたんだから。
「けほっ」
息が詰まって、苦しさを紛らわそうと目を閉じる。
瞼の裏には、昔のまどかの優しい笑顔と、今のまどかのぶっきらぼうな笑顔、両方が浮かんできた。
小さく、笑みを作る。
(ほんとは、あなたがいなくて生きていけないのは私の方)
「…………まど、か」
(あなたに必要とされなければ、私には生きている意味がないの)
こうなって、思い知る。
彼の言葉一つで危篤状態なんて、なんだか情けなくて笑えるけれど。
それが私という存在なのだ。
今も昔も。
――私は、死ぬのだろうか。
そんなことを考えて意識を手放そうとした、その時。
「…………ま」
微かな物音と声を、耳が捉える。