まどかな氷姫（上）～元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい～

「なら、少し話をしよう、たま」

「……え？」


静かな声に、振り向く。

玄関先で聞くようなものじゃない、真剣な声音だった。


「俺、正直まだ、あんたの顔見て話せる自信がない…。でも扉を挟んでなら、話せる気がする」

「……」


たどたどしい言葉は、一言一言を選んでいるようで。

不器用な誠実さが感じられた。


「……なんで、顔、見れないの」


以前、何故か顔を真っ赤にしたまどかに避けられたことを思い出し、素直に問いかける。

すると、長い沈黙を置いて、彼は言った。


「…………それは、お、俺の問題、だから」

「？」


意味の分からない返答に、首を傾げる。

それ以上は語ろうとしないまどかに、ひとまず、自分が何か不快な思いをさせたわけではないことは理解した。

緩慢な動きで玄関扉に近寄り、そっと手を触れる。

不思議と、あれだけ暴走していた力は鳴りを潜め、代わりに感じるはずのない熱が手に伝わった気がした。


「………まどかも、私が嫌いになったんじゃないの」

「俺も、ってなんだよ、『も』って。他にあんたを嫌ってる奴なんているのか」


（私）


心の中での返答は聞こえるはずもなく、すぐさま不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「別に、自分勝手な変態だとは思ってるけど、……嫌いじゃないし」

「………」


自分勝手な変態とは、もしかしなくとも、私の事だろうか。

そんな人間が他にもいるなら、私は嫌いになる自信があるんですが。まどかは凄い。


いたずら心で、私は扉に背を預けて、口を開いた。