まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「…大丈夫?」
顔を覗き込んでもしばらく焦点が合わず、心配になって眼前で手をかざせば、ようやく彼は私と目を合わせた。
「たま………お?」
「うん」
こくりと幼子のように頷いて見せ、もう一度尋ねる。
「大丈夫?どうしたの」
「………………俺」
私の存在を確かめるように一度腕に力を籠め、抱きしめ直してから、彼は呟いた。
「……いき……」
うわごとの如くか細い声はそこで止まり、
「………夢?」
首を傾げ返された。
「うん、一度落ち着きましょうか、まどか」
申し訳ないが、いくら元妻とはいえ、意味が分からん。
要領を得ない彼に呆れ、私は彼の両頬に手を当てる。包み込むように。
私としてはただ触れているだけだったのだが、彼は途端に安心した様子で、見開いていた目を閉じ、深く息をついた。
「冷静になった?」
しばらく経った後、静かに問いかければ、彼は小さく首肯する。
「夢を見たの?」
「……ん」
一度こちらを見た瞳は、すぐに恥ずかしそうに逸らされた。
(?)
内心訝しんでいると、彼は明後日の方向を見たまま続けた。
「最近、よく見るんだ」
「あら、そうなの。どんな夢?」
不思議なこともあるものだ。
私もつい最近まで、目覚めても鮮明な夢を見ていた。
それも、艶がありすぎて居た堪れないものを。
(彼はどういう夢を見るのかしら)
昔のまどかなら、日向ぼっこをしたとか、動物と戯れたとか言う気がする。彼自身、とても無垢な人だったから。
ただの興味本位で、口元に笑みまで浮かべて聞いた私に、
「うっ」
ボンッ、と。
音がしそうなほど瞬時に、まどかの顔が赤く染まった。
耳や首元まで赤い。ゆでだこ状態だ。
「ま、まどかさん?」
「………あ……ぅ」
口をぱくぱくと動かして哀れなくらい取り乱している彼が本気で心配になり、顔色を見ようと顔を寄せたが、
「みみみみ見るな!!」
「わっ」