まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
彼が大きく身じろいで顔を隠したため、まどかの足の上に横向きに座っていた私は体勢を崩した。
はっとしたまどかが、慌てて私を抱きしめ直すと同時。
――カツン。と、硬い音が部屋に響いた。
(何の音?)
まどかにも聞こえたのか、二人で視線を巡らせて音の正体を探す。
やがて、同じ場所に視点が定まった。
「………これ」
私は傍らに落ちた、あるものに手を伸ばした。
手のひらの上で輝くそれは……。
「なんで、このブローチ、まどかが持っているの?」
いつの日か失くしてしまった、持ち主不明のあの蝶のブローチだった。
気づけば既に夕暮れ時で、窓から差し込む夕日と調和することのない紫色が、妖艶に光を弾いて輝いている。
私の手元にあるブローチを見たまどかが、今度は真っ蒼になって自分のズボンのポケットに手をやった。
しかし、すぐに息を呑んで視線をこちらへ戻す。とても気まずそうに。
「あの、……それは……」
もごもごと煮え切らない様子で、彼は視線を彷徨わせた。
「……」
私の中でいくつもの考えが巡る。
(これは間違いなく、あの日私が失くしてしまった落とし物と同じ形状のもの。でも、ただの既製品、…にしてはまどかの様子がおかしい)
ただ買った、というだけでは、さすがにこんなに焦らないだろう。
加えて、まどかの性格上、他者からの貰い物であれば眉一つ動かさずにそう言うだろうし。
「………まどか」
じっと彼の横顔を見つめる。
目が合わなくても、神経はこちらに張り巡らされているのを感じながら、私は言った。