まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「盗った?」
「…っ」
ただ落とし物を拾っただけの私が言うのも、被害者面はなはだしいが。
言葉通りにとれば、まどかがこのブローチを誰かから盗んだのではないか。と勘違いを招くかもしれない。
けれど、私が言いたいのはそういうことではなくて。
「……どうなの」
「……………」
ただただ返事を待ってじっとしていると、やがて。
「…たまが」
「……私が?」
観念したように唇を噛み、まどかは呟いた。
「寂しそうに見つめてたから……」
「ブローチを?」
「……」
まどかの頭が微かに動く。
(もしかして)
これを拾った次の日に、私が廊下で窓の縁に頬杖をつきながら、ブローチを光に翳していた時の事を言っているのだろうか。
気づかなかったが、あの場に彼もいて、その様子を見ていて。
そして、私のポケットから落ちたブローチを拾った。
(……やっぱり、私のものだと思って、拾ったんだ)
経緯は分かったが、ある疑問が浮かぶ。
「どうして、ずっと持っていたの」
そう言えば、彼になくしものをしたのかと聞かれた。
私は大事なものなのかと尋ねられ、『そう』と答えたはずだ。
なのに、彼はその時、何も言わなかった。
私がブローチを見て、それを落とすまでの間、その場にいてすべてを知っていたというのに。
「…………だ」
「え?」
聴き取れない声に聞き返すと、自棄になったように彼が叫んだ。
「ただのみっともない嫉妬だよ!!笑いたきゃ笑え!」
「え?ど、どういうこと!?」
意味が分からず首をひねると、まどかの眉がぎゅっと寄る。
「たまが!他の男からもらったもの見て、苦しそうにしてるのがムカついたんだよ!」
私、まん丸お目目。
私が、ブローチをもらったって?
………誰に?
「これ、私のじゃないよ?」
「へ?」
当惑しながら告げた私の言葉に、今度はまどかの目が丸くなる。
きょとんとした彼は、困った様子で言った。