まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「でも、大事な物って…」
「落とし物だもの。誰かの大事な物でしょ?」
「た、ただの他人の落とし物で、普通あんな悲しそうにしな……」
「色を見て感傷に浸っていただけよ。誰かの落とし物をさらに失くすなんて最低だと思ったし」
「…な……」
とうとうまどかの言葉がなくなった。
肩がわなわなと震えている。羞恥やら、居た堪れなさやら、色々感じているのだろう。
私としては、嫉妬して私が落としたものを隠し持っていたまどかの可愛さにキュンキュンだ。
しかも肌身離さずポケットに入れていたところが、さらにキュートじゃないですか?
(でも気を付けてね、まどか。それ、ずっと意図的に持ってしまってたら外では普通に窃盗よ)
頭の中でだけ忠告をし、ご機嫌な私は笑顔で彼に顔を寄せた。
「『他の男』って……。まどかったら、誰に嫉妬していたの?」
意地が悪いと自覚しつつ、まどかの真っ赤な頬を指でつっつく。
「……っ」
ぎりりと歯を食いしばり、恥ずかしそうに、何より悔しげにこちらを睨みつけてくるまどか。
(どうせ、まどかに嫉妬しちゃってたんでしょう?)
答えが無くても手に取るようにわかる彼の思考に、幸せな気持ちになって、
「ふふっ」
思わず笑みを零す。と、
「……たま」
まどかが、はっと息を呑んで、その手を私の頬に添えた。
両手で、そっと包み込まれる。先程とは逆転した立場に、私は黙ってまどかを見つめ返す。
整った彼の顔が泣きそうに歪み、次に安堵が浮かぶ。
その様子を見守っていれば、彼の薄い唇が小さく動いた。
「……………ごめん」
「え?」
突然の謝罪に、私は目を見開く。
凍死しそうなところを救われて感謝こそすれ、謝罪を受けるようなことはされていない。
真意を問おうにも、彼は俯いてしまっていて表情を窺うことができずにいた。
(まどかが謝ることなんて、何もないのに…)
そう言おうと、口を開いた時。
「………俺が、もっと、頼りがいのある男だったら、たまを危険な目に合わせなくて済むのかな」