まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
その言葉が耳に届いた瞬間。
「…っ」
「いっ!」
ぐいっと、まどかの顔を掴んで、上向かせる。
力加減もせずにそうしたものだから、彼から苦悶の声が聞こえたが、そんなことは知らない。
呆然とした薄茶の瞳がこちらを見ている。
その目には、苛立ったように眉を寄せる、お世辞にも美人とは到底言えない自分の顔が映っていた。
「た……」
彼の唇が私の名前を紡ぐ前に。
「んっ…!?」
自分の唇でそれを塞いだ。
「っ」
びくりと彼の肩が揺れる。
唇を重ねながら、目の前の綺麗な瞳が驚愕に見開かれていくのを見てから、私は静かに目を閉じた。
押しのけようとしてか、一度は私の肩に乗せられた彼の両手が、やがてゆっくりと後頭部と背中に回る。
「………っ」
体に、唇に、触れる熱がどうしようもないくらいに愛しい。
記憶の中、夢の中だけの触れ合いなんて、もう御免だった。
(あなたに誓って、私はもう、我慢しない)
――私たちの因果が、今もなお昔のように、私たちを引き離そうとするのなら。
(あなたとの未来を生かすために。あなたを、わたしを、生かすために)
――今度こそ、その因果を壊して見せる。
どちらともなく自然と唇を離し、至近距離で見つめ合う。
そして、私は言った。
「違うわ、まどか。あなたに頼りがいがありすぎて、無茶ばかりさせてしまうのが目に見えてるから、私も無茶することを覚えたの」
それは決して、信用してないとか、嫌いだからとか、そんな理由ではなくて。
むしろ逆なのだ。