まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「誰?」
「さぁ…、宅配便かしら?……私は何も頼んでないけど」
もしかしたら、私の後見人さんかもしれない。
1年に何度か、仕送りとして食材や消耗品などを送ってきてくれるのだ。
ただ、つい先日、一度届いたばかりで、次が届くには早すぎる気もするが。
私は彼と繋いでいた手を離し、よれた寝巻を整えながらゆっくりと立ち上がった。
部屋に置いてある姿見で、一応変なところがないか確認をする。
見たところ髪の色も白眼交じりの薄茶色に戻っているし、瞳の色も同じになっている。
まだ若干やつれてはいるものの。
これなら人前に出ても、まぁ、いいだろう。
ふらふらと玄関へ足を進めようとすると、後ろから慌てた声が聞こえた。
「お、おい。そんなんで出るのか?」
「だって、一応家主は私だもの。……皆風邪を引いて寝込んでたって、出られそうだったらそのまま出るでしょう?」
訝しげに振り返った私に、歩み寄ってきたまどかが言う。
「俺が出るから、部屋でじっとしてろよ」
「はぁ?もしご近所さんだったら、あなたが出るとあらぬ誤解を生むわよ」
気遣いは嬉しいが、そこまで過保護になられても困る。
唇を尖らせて腕を組むと、まどかは逡巡した後、言った。
「やっぱり、俺が出る。近所の人だったら俺の方で適当に言い訳するから、無理しないでじっとしてろ。気になるなら近くで見てても良いから」
「………心配性」
ぼそりと吐いた憎まれ口は、既に玄関へと歩き始めていた彼の耳には届かなかったようだ。
私は言われた通り、部屋の入口…、丁度玄関の様子がうかがえる場所で、ぺたりと座り込んで待機する。
――ピーンポーン。
痺れを切らしたように、再び響き渡るチャイム。
催促するかのごときそれに、まどかが急いで鍵を回し扉を開ける。
すると。
「あら、びっくり。近衛君じゃない。ここ、白峰さんの家よね?」
「えっ…、花田さんっ!?」
聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、開かれた扉の間から、長身の女子生徒の影が見えた。
(なんで花田さんが、家に……?)
家族はおろか、友達もいない私の家に尋ねてくる人なんて、本来いるはずないのに。(型破りのまどか以外)
当然彼女だって、私の家を知るはずもない。
まどかも同じ疑念を抱いたのか、見える背中が警戒心を帯びた。