京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「とーとー、囲い込みおったんかあ?」
 祖父に肩を抱かれ朔埜はむすりと口元を引き結んだ。
(──呼び出しに応じて来てみれば、これかい)

 朔埜は普段、旅館の若旦那として表に立つ時には、柔らかい笑みの仮面を着けている。だからこれは心を許した相手に見せる、朔埜の隙の一つなのだけれど。
 そんな孫の癖には慣れっこの祖父は予想通りの反応にご満悦である。

「ちゃうわ」
 そっけなく手を払われても気にする様子はない。朔埜もまた、そんな余裕は無かった。

「花崎夫人まで紹介しておいて何をまあ……」
「……」
 旅館の常連で、上客でもある。
 新人に任せる担当というには彼らは過ぎる相手だと言いたいのだろう。
 朔埜の気持ちなどお見通しなのだ。
 渇望が顔を出し、可能性を模索している朔埜の心など。

 ──好きな女は妾にしろ、というのは祖父の言葉だ。父のようにしたくないと言っていた事を考えれば、婚前である今、朔埜に弁えろと言っているのは明白だ。
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