京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
(身分は、悪くない)
けれど朔埜には既に婚約者がいた。
祖父が決めた相手。
その家が四ノ宮家に重要な縁のある相手だと、その頃の朔埜には充分理解できていた。
けれど、
手にした書類を手放せずに握りしめる自分がいる。
そもそも彼女の家柄が予想に反していた事は運でしかなかった。そうでない可能性の方が高かったのに、自分は何を期待していたのか……
分からない……
選べない……
結局婚姻の決断を出来なくなり、大学卒業と同時に行う予定だった乃々夏との結婚は流れた。
それが先方の不信を買ったし、外野にあれこれ口出しさせる隙を作る羽目になってしまったのだけれど。
今も乃々夏を待たせてしまっている。
約束したのに……
それから更に年月が経ち、千田家との縁談を持ち出された時は目眩を覚えた。乃々夏との進まぬ仲を見越した誰かが寄越した縁で、その背景には父がいると聞いて驚いた。
朔埜としてはどうでも良い話で、受ける気も無かった。けれど祖父に会うように勧められた。
(……史織じゃないのに)