京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
千田の家と関係を持てば、どうしたって史織の記憶が頭を刺激する。忘れる事も受け流す事もできなくなったらどうするんだ。
苛立つ朔埜に祖父は呵々と笑った。
『好きな女なら妾にすればいい』
それは政略と恋愛は別だと言う事だろうか。
不快感を露わにする朔埜に、祖父は悪戯っぽい目を向けた。
『ああ、すまん。言い間違えたな朔埜。──ただ好きなだけの女なら、妾にすればいい』
『……』
『お前の父のように、守る覚悟も引き止める勇気も持てず、それでいて忘れる事もできないなら。そう考えるよう、四ノ宮家当主としての思考を作り上げろ。そして、儂を越えろ』
『……やめ』
当主を継ぐにあたり、よく祖父は自分を越えるよう、朔埜に言い聞かせた。まるで祖父がいなくなってしまうようなこの響きが嫌で、朔埜は耳を塞いできたけれど。
「──史織の行動は把握しておらんかった。何でここに来たんかも知らん」
最初あの様子から、四年前の事も自分の事も覚えていないだろうと思ったていた。けれどそれは半分正解で半分不正解だった。
彼女の中に自分がいた。
それを聞いた時、全身の熱が一気に高まったと同時に頭の一部は冷えていき。
一時の感情に流されて、過ちとして産まれた自分が父のように振る舞い、史織に母のような思いをさせたらと思うと、ぞっと身体が強張った。