京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「……辻口、何で乃々夏を連れてきたんや」
乃々夏を諦めて、土間で佇む自分の手下に声を掛ければ、平坦な声が返ってきた。
「お嬢様が朔埜様にお会いしたいとおっしゃるので」
満足そうに笑みを零す乃々夏に溜息が出そうになる。
「客間で待ってればいいやろが」
「だぁって〜」
ほわほわと笑う乃々夏に険を向けても受け流されるだけだが……
「乃々夏ちゃん水羊羹食うか?」
「わあ、食べたい〜」
「辻口、茶淹れろ」
「畏まりました」
「……」
わいわいと進む会話を聞き流し、朔埜がはぁと頭を押さえていると、辻口の携帯が震えた。
「──失礼致します、はい。辻口です……」
そう言って電話口の相手の話を聞く辻口の表情は、次第に困惑を見せる。
「……分かりました、こちらで対処します」
ピッと音を立て切れる電話を一拍見て、辻口は朔埜に向き直った。
「西野さんが、見当たらないそうです……」
その言葉に朔埜の顔が強張った。