京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
4. 東郷 乃々夏
十五歳のある日。
父親の意向で決められた婚約者はとても綺麗な顔をした男の子。
けれど母はその子を「外腹の子」と蔑み、認めていないようだった。
……確かに名家の子息にしては、髪といい態度といい作法といい──直すべき事が多すぎる。
「そんな事言わないで下さいまし、お母さま」
にこりと笑うと母は、悲しみより悔しさを歪めたような顔で、乃々夏に縋った。
父は警察庁で働いている、偉い人。
東郷という家が代々その職に就いている事から、何がしか、使命感のようなものを受け継いでいるのだと思っていた。
けれど乃々夏は一人娘で、父の後を継ぐ事はできない。教育も勉学に重きを置かれてはいなかった。
だから自分はいずれ誰かの妻となり、その人を支える役目を担うのだと、乃々夏なりに理解してきた。
つまり誰か婿を取るのだと、そう思っていたのだけれど──
何故か乃々夏は四ノ宮へ嫁に行き、旅館の女将をやる事になったのだ。
「……待望の後継者が見つかったのだ。お前も東郷に嫁いだのなら、家の為に尽くせ」
そう諭される母の顔にはありありと不満が浮かんでいる。
乃々夏の父母は政略婚だけど、母が父を望んで成った婚姻だと聞いている。父の事だから私情より家を守る事を第一に、母と結婚したのだろうけれど。
だから結婚に際して、きっと東郷家を貶めるような真似をすれば即離婚する。くらいの誓約を、父は母にさせていてもおかしくない。だからこそ乃々夏は首を捻る。
世間一般では、母の言う通り朔埜との結婚は東郷の醜聞になりうるのに。