京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

(待望?)

 その言葉の意味を探り頭を巡らせる。
 朔埜には正妻の子が産んだ一つ下の弟──昂良(たから)がいる。四ノ宮家の嫡男は彼だ。それなのに待望とはどういう意味だろう。何故昂良を無視するような言い方をするのだろうか。
(でも、確かにお父さまは昂良に期待していないようだったけれど……)

「──どう考えても、錆びれた旅館の当主の妻より、世界規模で事業を広げる企業家の妻のが全然ええわ。何かにつけて東郷、東郷て、あなたは娘が、乃々夏が可愛くないんですか?!」
 そう言って睨みつける母をつまらない物でも見るような眼差しで一瞥し、父は乃々夏に向き直った。

「お前も母親と同じ意見か?」
 
 現当主はわざわざ瑕疵のある朔埜を見繕い、父もそれを受け入れている。

(何かしら?)
 
 父の瞳の奥にある確固たるものに興味を持った。だから、
「いいえお父様、乃々夏は東郷の娘ですから」

 顔色を無くす母を他所に、乃々夏はにっこりと笑みを作った。
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