京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「あたし、知ってる〜」
愕然とする朔埜に乃々夏はおっとりと首を傾げた。
はっと息を飲む朔埜にちらと見遣り、指先に髪を絡ませる。
「知ってる? て、何をや……」
余裕の無い表情のまま眼差しに険を乗せれば、視線で窘める祖父の注意にも気付かない。
そんな朔埜に乃々夏はふふと笑みを浮かべる。
「西野ちゃんは〜、同級生のお友達と離れで会うみたいよ〜。廊下で話してるの聞いちゃった〜」
明らかに青褪める朔埜に、乃々夏はにこりと微笑んだ。
「二人は〜、両思いだったのかな〜?」
「っ違う!」
自分の声に驚きを隠せないように、朔埜は口元を手で抑えた。けれど僅かに逡巡を見せた後、直ぐに辻口に振り返る。
「──会社研修を引き受けている離れはどこや」
「水仙の間です」
それだけ聞くと朔埜は素早く立ち上がり、奥座敷を飛び出して行った。