京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「……乃々夏ちゃん、良かったのかい?」
ずずっと茶を啜る当主に乃々夏は変わらぬ様子で微笑む。
朔埜は気付かなかった。
乃々夏が伸ばした手が届く前に、彼が行ってしまった事に。
「朔埜様はとても素晴らしい当主となりましょう」
乃々夏は水羊羹を小さく切り口に入れた。
「朔埜はちゃんと、妻にした人を大事にすると思うぞ?」
「そうですねえ……でも心ここにあらずな結婚生活なんて、楽しくありませんわ」
ずっと言いたかった事を当主に投げかければ、正面から見透かすような、咎めるような視線が向けられた。
「お前たちは似た者同士だからなあ……」
そう言って苦笑する当主に乃々夏もまた淡い笑みを返す。
「あたしは……他に好きな人がいると結婚したくありません」
「……つまり史織さんは邪魔という事かな」
ふうと息を吐く息が火鉢に掛かり、火の爆ぜる音と共に炭の赤みが増した。