京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
やっとの思いで下駄を音なく脱いで、進行方向に向き直れば、誰かの靴が見えた。
口を開いて、けれど声を出してはいけないのだと、喉の奥に押し込めた悲鳴が全身を強張らせた。
「藤本〜、お前が言ってた女ってこいつ?」
目の前で男が張った声が絶望的にこだまする。と同時に震える身体を叱咤して、史織は急いで駆け出した。
「あ!」
「待てっ」
座り続けて痺れた足がもつれそうになりながら、絶対に転んでは駄目だと自分を叱咤して、とにかく走った。けれど、がくんと首から衝撃が走り、気付けば自分の身体が地面に叩きつけられていた。
「げほっ」