京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 そう言って伸びてきた藤本の手を反射的に叩き落とす。
「触らないで!」
「痛、酷いなあ……」

 そう言って笑ってみせるその人の顔が、以前好きだった人と重なってはぶれていく。自分の見る目の無さに悔しくなるが、それどころではない。
 史織はうつ伏せのまま、必死に携帯をまさぐり、連絡先アプリを起動させようとしていた。

(早く、助けを……京都で助けに、来れる人……)
「もういいから連れこんじゃおうぜ〜、藤本」
 仕方がないと笑う藤本に嫌悪の視線を向けながら、史織はスマホを身体で隠しながら操作し続ける。
 
「あん?」
 けれど焦りが出たせいか、身動いだタイミングで男の一人が史織の動きに勘づいた。
 史織は勢いのみままスマホを手に取り、アドレスの一つをタップした。

「こいつ!」
 けれどコール音が鳴ると同時に男に取り上げられ直ぐに切られる。
 そのまま遠く放られるスマホを見送り史織はぎゅっと奥歯を噛みしめた。
「残念だったな〜」
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