京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
因みにこの、え、は史織である。
朔埜の拳には遠慮がない。いや、史織としては庇ってもらえたようで嬉しいとは思うけれど、一従業員としては、……凛嶺旅館は大丈夫かな? である。
「わわわ、若旦那様?!」
「──っな、何するんだよ!?」
四人いた仲間が半分になり、男たちは地べたに転がる二人に驚愕している。
「そ、そうだぞ。け、け、警察に言うからな!」
「警察に言うて困るのは、あんたらや」
ドスの効いた低い声にぎくりとする男たちに、朔埜は構わず鋭い視線で続ける。
「お客様、うちの旅館は評判の宿でしてね。設備には細心の注意を払っているのですわ」
声音だけは多少柔らいではいるものの、険を含んだ眼差しは慇懃無礼と言っても過言ではない。とは言え、とてもそんな態度を諌めるような雰囲気でもない。
良く言えば閻魔、悪く言えば悪鬼のような形相で、目の前に立たされた二人はさながら裁きを待つ罪人か、差し出された生贄のような顔で立ち竦んでいる。
傍らで傍聴する史織ですら緊張が走る。
朔埜はそんな男たちの様子に満足したように、にっこりと笑い、続ける。