京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「やり過ぎですよ、若旦那……」
「……連行の手伝いをしただけやろ」
「まあ、事前に東郷はんから連絡もろてますけどね……」
「乃々夏、あいつ……もっと早よ言やいいのに……」
そう唇を尖らせてから、労るような眼差しで史織を見下ろす。
「大丈夫か?」
そっと肩を摩られ、びくりと身体が強張る。と同時に涙が溢れてしまった。
「ご、ごめんなさい……大丈夫、です」
手を振って、涙を誤魔化そうとしていたら、急に身体が傾ぎ、妙な浮遊感に襲われた。そのまま頭から朔埜の羽織を被せられ、ざくざくと何故か何処かに連れ去られてしまう。
「あ、の……」
「舌噛むから黙っとき。あーくそ、ったく。俺が迂闊やったわ、自分に腹が立つ」
凄いスピードの中、耳に届く悪態を聞きながら、史織はひっそりと鼻を啜った。
(怖かった)
再び込み上げそうになる嗚咽を奥歯を噛み締め耐えていると、史織を抱える朔埜の手に力が篭った。
「来るのが遅くなって、すまんかった……」
「……う、」
そう言ってしっかりと抱きしめる朔埜の胸で頷いて、史織は声を殺して泣いた。