京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「〜〜〜っ、嫌やない!」
赤くなりながら何故か怒り出す朔埜にきょとんとしてしまう。
「なら、良かったですが……ふふ」
それに釣られるように思わず笑みが溢れた。
驚いて瞬きをすれば、同じように驚いた顔でこちらを見る朔埜がいた。
不思議だ、朔埜は怖くない。
さっき触れられた時も嫌じゃなかったし、照れ臭そうにする朔埜にほわりと胸が温まる。
朔埜は仕事熱心で、お客様への対応も、従業員への配慮も完璧な……お見合い相手、だ。
頭を過る麻弥子の顔に史織ははっと息を飲んだ。
(麻弥子ちゃんのお見合い相手なんだから!)
「若旦那様。もう大丈夫ですから、お戻り下さい」
「……対応は旅館でするさかい、お前はゆっくり休んでてええ」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと朔埜は少しだけ寂しそうに笑って、ふと手を伸ばした。
「……え」
自分の頬に寄せられた掌に、史織は固まってしまう。