京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 忙しい中申し訳ないと思いながらも、歩は進む。
 何だかんだで自分は朔埜に会いたいのだ、なんて思いつつ史織は道を急いだ。

「お待ちなさい」

 そこへ低い声に呼び止められ、後ろを振り返る。
(お客様かしら)

 けれどそこには四ノ宮 水葉──朔埜の祖父が立っていた。

「大旦那様」
 慌てて頭を下げる。
 以前来たばかりの時に、三芳と共に遠目に目礼しただけだ。その際見透かすような目が印象的だった。
「すまんな急に。少し話せるかい?」

 穏やかな眼差し。
 優しい口調。
 けれどこの態度がそれだけじゃない事を、史織は知っている。祖父、千田 柳樹(りゅうじゅ)も持つ、明確な線引きを示す態度──

「……はい、勿論です」

 史織は頷き、水葉に従った。
< 149 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop