京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「そう……なんですね。じゃあ、若旦那様はやはりその、乃々夏さんと──」
「──分からん」
きっぱりと首を横に振り、水葉は軽く息を吐いた。
「儂は二人が寄り添い、認め合い、支え合ってゆくのだと思った。あの二人は賢い。きっと上手くゆく。これでも儂は人の目を見る自信があったからな。でも、出会ってしまったから……」
秋風を受けながら水葉は、ははと笑う。
水葉の行為は間違いなく愛情によるもの。上手く嵌れば皆幸せになる。間違いなくそれを願った。
「けれど朔埜があなたと出会い、違う可能性が生まれてしまった。あやつは儂が示した道の先にある幸せの。そこにいる人々の分も見越しておる。だから……いずれを選んでも……後悔は、あるだろうなあ……」
「私……ですか?」
困ったように笑う水葉と視線が絡む。
自分は朔埜が迷うような、そんな何かをしてしまっただろうか。
思わず考え込むが、とんと思い当たる事がない。
「こういう状況になって、やっと儂は朔埜が揺れる事は悪くないと思った。何もないままなら、儂が進めた道をあやつは悩まず受け入れるだろうから。けれどそれをしてしまったら、もう戻れない。例え間違えたと感じても、あれは己の心を殺してそのまま進むだろう。それは良くない。だから、あなたにはお礼が言いたかった」
「お礼、ですか?」
急な話にびっくりする。
何もした覚えもないのに……