京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
4. 家族
竜胆の間──
名前に反して孤立したホールである。
市区町村で使う講堂規模の大きさを持つ。有識者の講演などにも使われる、有名な場所だ。
今その会場内は、三日後のパーティー開催に向けて最終チェックの段階で、きっと恐ろしく忙しい。
謝るタイミングとしてはイベントが終わった後が良いのだろうけれど……史織の行儀見習い期間ギリギリとなってしまう。時間が取れず、何も言えないままサヨナラをするのは嫌だ。
でも水葉も背中を押してくれたのでぎりぎりセーフだ。多分。
ホールの手伝いは頼まれていないので多少気まずいが、出入りしている人が多い今なら、分からない筈では、とドキドキと覗き込む。
(あ、いた……)
そこな後ろ姿の朔埜が誰かと話し込んでいるのが見えた。
「若旦那様……」
ぽつりと小さな声が零れる。
背中しか見えないのに胸が苦しい。
史織が胸を押さえて悶えていると、朔埜がはっとこちらを振り返り、驚きに目を見開いている。