京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
ぐいぐいと背を押される力に抗えず、史織は後に軽く会釈をしながらホールの出口に向き直る、と。ふわふわとした笑顔と目が合った。
「あら〜、西野ちゃんじゃな〜い? 朔埜も〜。あ、四ノ宮のおじ様〜、昂良さんも、お久しぶりです〜」
「──げ、乃々夏」
朔埜が口の中で悪態をつくのに気付かないまま。
その姿に史織の既視感が刺激された。
「乃々夏、さん……」
朔埜の婚約者。
以前会った時と同じように、綺麗なワンピースにハーフアップにした髪は柔らかそうだ。加えて姿勢の良い歩き方におっとりと笑う顔は、良家の令嬢を思わせる。
(どうして気が付かなかったんだろう)
この人はいつも朔埜に会いに来ていた。
二人が会う場所を見た事は無い、けれどニアミスだったではないか。
父親とも面識があるらしい言動から、恐らく家族ぐるみなのだろう。麻弥子が誤解していた朔埜の恋人とはこの人だ。
(やっぱり二人は……)
「何しに来たんや」
「え〜? 挨拶と〜、業務連絡〜」
口をへの字に曲げながらも、朔埜の乃々夏への態度は親しい者に対する気安いものだ。
ばくばくと鳴る胸を知られたくなくて、史織は微かに俯いた。
「兄さんと乃々夏さんは相変わらずみたいだね。東京から来てる見合い話はどうするのさ?」
「──あ? それは断る。てか何で知ってんねや」
(──っ、)