京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「当然だろ」
「朔埜がのぼせあがってる人がいるって〜、皆知ってるんだよ〜」
 和気藹々と話す彼らに呆然となる。
 朔埜には、……朔埜は……

「ああっ?」
 すかさず腕に絡みつく乃々夏を、朔埜は嫌がる様子もなく放っておく。

 そんな二人のやりとりに固まってしまい、その後の会話は聞こえて来なかった。
 断ると、そうだ断言した朔埜の言葉が頭に響く。そして──
 ここから逃げ出したい衝動が、史織の過去の記憶を刺激した。

『あれ、乃々夏やないやん』

 ……乃々夏

「──〜〜……っ」

 あの時のから背も伸びて、男らしくなっていた。
 髪の色も品の良い黒髪に変わっていて、旅館の支配人らしい佇まいは、あの時の金髪の細身の学生とはまるで別人で……気付かなった。

(どうしてまた、あなたなの……)

 史織に力をくれた、ずっと目標にしていた人。
 憧れに等しい想いを抱いていた。
 ずっと忘れられなかった横顔が今やっと重なった。
 
 気付いたばかりの想いと、過去踏み出せなかった記憶に身体が後ずさる。

(わた、し……もうここにはいられない……)

 史織は頭を下げ、急いでその場を後にした。
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