京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「あ……」
「あら〜、逃げちゃったわ? 朔埜が追い出すような真似をするから〜」
確かにここから立ち去るべきだと背中を押したけど、何だろう。何故か胸がもやもやするのは……
ころころと笑う乃々夏にむっと顔を顰めていると、昂良が顎に手を添えてにやりと口元を歪めた。
「自分の立場を弁えたんだよ」
「勝手な事言うな、あほ」
じろりと睨めば異母弟はキザったらしく肩を竦めてみせる。
どうせ史織の仲居着を見て彼女を使用人扱いでもしているのだろう。
「誰だか知らんが、お前は乃々夏さんと結婚すればいいんだ。いつまでも身を固めずふらふらして、悪い噂でも立ったらどうするんだ」
低く告げる父に朔埜は鼻で笑って返す。
「……人に事業関係の縁談を押し付けておいて、何を言ってるんですか。そもそもあなたの結婚観なんて聞いていません。自分が失敗したからって、その価値観を俺を押し付けるのは止めて貰えますか?」
「何だと?」
「幸せな結婚生活を自慢したいなら、自分の息子に好きなだけしたらいいでしょう」
「あらあら、もう〜、朔埜ったら〜」