京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
父と義母、弟の昂良は東京に住んでいる。
そんな中で彼らとどう関係を深めていけばいいのか、朔埜には分からない。そもそも父に関しては会ったその日から嫌いだ。
自分と良く似た容姿で、嫌でも血縁者であると分かってしまう。
その顔で恋した母を子どもごと捨てておきながら、今こうして白々しく自分の前に立っている。自分の全てを否定しておきながら……四ノ宮に必要だからと父親面をするようになったのだ。
ただ、昂良の事は、よく分からない。
「千田家との事を気にしているなら気にしなくていい。昂良がいる」
「──は?」
弟の事を考えていた矢先にその名を口に出され、何だか嫌な予感が胸に湧く。その気持ちのまま眼差しに険を乗せ、父親を睨んだ。
「まあまあ兄さん」
とりなすように自分と父親の間に入る昂良に苛立ってしまう。
(……こいつは一体、何を考えているのか)
確かに東京で手広くやるのなら、その地で根付いている家と縁付くのが良い。婚姻による家同士の繋がりは、昔から取られた手段であるものの、形骸化するには上がる声は途切れないからだ。
「兄さんには東郷が、俺には千田が必要だってだけだろ。そうピリピリするなって」
「……」
裏表なくそう話しているのだと思えないのは自分の見方が穿っているからだろうか……そもそも昂良との関わりは薄く、どんな人物か詳しく知らない。けれど朔埜からは好意的な目で見られない。弟、と言われるも、それが何であるかも、出会った時からいまいちよく分からないでいる。
確かに千田の婚姻を昂良が引き受ける事にメリットはある。けれど、それは朔埜が乃々夏と婚姻する事が前提だ。
(昂良は史織の事は知らんと思ってたけど……)