京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「ほらね父さん、やっぱり兄さんはちゃんと分かってるよ。言った通り、千田の縁談は俺の名前で進めてくれて構わない」
「本来なら、望まぬ縁談をお前が受ける必要は無いと言いたいが……お前が気に入ったというなら話だけでも聞いてみればいいだろう」
「……」
父の声をいらいらと聞きながら、纏まり掛けていた思考が霧散するのを感じる。同時に目の前のやりとりを茶番のようだと鼻白んだ。
千田家との縁談は東京進出中の四ノ宮にとって良縁だろうに。きっと千田 麻弥子という女性を父は気に入らないのだろう。朔埜は勿論、彼女の情報を持っているし、父が内密に調べた事も知っている。
朔埜に難癖でも付けたいのかと思っていたが、昂良が関心を示していたからか。特段文句は無さそうだ。
それにしても父の話を聞くのは相変わらず気分が悪い。母や自分から目を逸らし、自分が完璧な主張をしていると言いたげで。
「……あほくさ、好きにしたらええやん。乃々夏、話があるから後で……三芳の部屋に来い」
「……分かったわ〜」
「お前、何だその態度は!」
「まあまあ、父さん」
「止めて下さいな〜、おじ様」
ふんと鼻を鳴らし背を向けて歩き出す。
……変わらず騒がしい背後から意識を離し、既に朔埜の心は史織に向かっていた。
その背を見て一人、込み上げる笑いを抑えられ無い人物がいる事に、朔埜が気付く事は無かった。