京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

5. 四ノ宮 昂良


 四ノ宮 昂良は産まれも育ちも東京だった。
 良家の令息、一人息子として大事に育てられ、そこに疑問を持つ事など何もなかったし、良好な家族関係から、そんな必要も無かった。

 十五歳のある晩、父母が小声で諍う声に気が付いた昂良は息を詰め、声のする方へ近付いた。

「あんな女の産んだ子を後継にするなんて! お義父様は一体何を考えているの?!」
「いいじゃないか、君は旅館の女将だなんて嫌だって言ってただろう? 東京で成功してこうして旅館経営なんかよりずっといい暮らしをしてるんだ。あんな古臭い縛りのある家の一つ二つ、くれてやるくらい構わないだろう」
「……それは、あなたがその子に後ろめたさを覚えているからでしょう?」
「何だって?」
「あなたにとっては青春時代を一緒に過ごした大好きな相手との子供だもの……情があっても不思議じゃないわよね」
「あのなあ……何度も言ったけど、僕が結婚したいと思ったのは君なんだ。過去に付き合っていた女性を蒸し返すのはいい加減にしてくれないか」
「子供まで作っておきながら何言ってんのよ!」
「出来てしまったんだから仕方ないだろう。それに君だって納得して僕と結婚してくれたんだろう?」
「それは、そうだけど……」
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